北川欽一さんのちょっといい話
2025年1月発行/第122号
兵庫県立姫路商業高等学校 地域創生部顧問
北川欽一さんのちょっといい話
高校生のやわらかい感性と情熱が
おとなと社会を動かす
北川 欽一(きたがわ よしかず)さん
兵庫県姫路市在住。妻・中学生の娘・小学生の娘と息子の5人家族。地域創生部では、災害食のパンの缶詰[ふわ姫パン]の商品開発をし、防災・ボランティア活動、国際交流に取り組む地域創生部の顧問。石川県能登町での被災地支援、今年度、姫路市で開催された世界銀行・防災グローバルフォーラムで発表、日本とフィリピンの高校生による気候変動・防災フォーラムでフィリピンに生徒と渡航。
高校の部活といえば、スポーツや文芸ジャンルなどが一般的ですが、近年、社会課題に取り組むクラブが増え、地域に根差した活動が注目されています。県立姫路商業高等学校(姫商)地域創生部は災害食のパンの缶詰[ふわ姫パン]を開発し、海外の被災地とも繋がるなど、熱心な防災・減災活動を展開。昨年度の「やさしさにありがとうひょうごプロジェクト」の助成団体に選ばれました。生徒と一緒に意欲的に取り組む北川欽一さんにお話を伺いました。
祖父やクラブ顧問に憧れ
教員の道に
私は運動部の顧問ですか?とよく間違われるのですが、それは学生時代、スポーツに熱中していたからだと思います。出身は北海道の苫小牧市。ここはアイスホッケーの強豪実業団を抱える王子製紙の工場があるところで、町じゅうアイスホッケーが盛んな地域。私も友人に誘われ、小学生の時にアイスホッケー部に所属しました。顧問の先生は朝から晩まで練習に付き合ってくださる熱血タイプで、そのおかげで中学時代、全国大会に2年連続準優勝という好成績を収めることができました。このような経験はそうそうあるものではありません。喜びを分かち合える学校の先生は良い職業だなぁと思うようになりました。うちの家系には代々、教員や医療従事者が多く、なかでも中学校の社会科教員だった祖父は多くの生徒に慕われた、私の憧れの人。同じ道を志すのは必然だったのかもしれません。その後、スポーツ推薦で大学の商学部に進学。高校生と対等な立場で向き合い、自分も成長できると考え、高校教員をめざすこととなりました。
初任校は県立西宮香風高等学校。この学校は1から3部に分けられ、社会人の生涯学習にも対応する単位制の高校で、3部にあたる夜間を受け持ちました。部活では野球やバドミントン、バスケの顧問のほか、ボクシング部も受け持ちましたね。私が担当する教科は商業科目全般で、教科指導の楽しさをよりわかってきたのが2校目の県立龍野北高等学校でした。ビジネスライセンス部という部活を作り、簿記や情報処理、電卓、珠算などの資格検定の指導をするのですが、なかには9つある検定の8つを取り、推薦で大学に進学する生徒もいました。この子は在学中に起業したと聞いています。商業の資格は将来の仕事に直結する頼もしいツールでもあるので、生徒の検定合格は自分のことのように嬉しく、やりがいを感じました。
生徒たちの成長が
自分のいちばんの喜び
4校目にあたる県立松陽高等学校時代、西日本豪雨ボランティアに生徒を連れて支援活動に参加したのですが、リアルな体験は心にくさびを打つのでしょうね。災害食に対する関心が高まり、生徒たちの想いとアイデアによって[松の陽だまりパン]という災害食のパンの缶詰が誕生しました。この経験がのちのふわ姫パンに繋がったのです。私は姫商に赴任する前の2年間、県の教育委員会の教育企画課に配属されました。教育改革に関する企画・調整・防災教育などを担う仕事で、間接的に教育現場を見る良い機会になっただけでなく、書類作成の力も身についたことから、エントリーシートやプレゼンテーションの原稿、パワーポイントスライドづくりにおおいに役立ちました。
姫商の部活は、大きく運動部と文化部に分かれ、文化部の中にビジネス部門があり、そのひとつに「地域創生部」があります。阪神・淡路大震災が30年の節目を迎える時期に近づき、防災を専門に活動していた経験もあったので、部員たちに防災をテーマにしたプロジェクトをやってみないかと声をかけました。こうしてふわ姫パンの取り組みが始まりました。
2024年1月、高校生が発表する持続可能な社会に向けた消費の取り組み「エシカル甲子園」で、ふわ姫パンの活動が全国5位に表彰されたのですが、部員の一人は泣いて悔しがりました。私は5位でも十分な成績だと思ったんですが(笑)。それから部全体がもっと前向きになり、2024年11月に行われた「商業高校フードグランプリ」では、最優秀賞の文部科学大臣賞を受賞し、商品開発の日本一を達成することができました。プレゼンテーションの原稿を生徒たちは自分の言葉に昇華し、日本語・英語・手話の3言語のプレゼンテーションもきっちりとやり遂げました。大会に向けてありとあらゆる準備をし、熱心に取り組んだ成果だと思います。そのような成長を間近で見届けられるのは教師冥利につきます。校長から「趣味でやっている」と言われるほど、私自身のめりこんでいますが(笑)、仕事感覚ではなく、楽しいから続けられるのですね。ちなみに、最近ようやく末っ子が、私がパン屋さんでなく、学校の先生であることを知ったみたいです(笑)