大竹修さんのちょっといい話

2023年10月発行/第117号

被災支援ボランティア団体 「おたがいさまプロジェクト」代表
大竹修さんのちょっといい話

被災地に笑顔を届け、思いやりの輪を広げよう

        大竹 修(おおたけ しゅう)さん

1978年 神戸市生まれ。都内のIT会社で働いている時に東日本大震災が起こり、石巻市で被災地支援を開始、その後の西日本豪雨をきっかけに、これからの社会を担う若者たちと一緒に「おたがいさまプロジェクト」を設立する。2019年より泥で汚れた写真を洗浄する写真洗浄事業を開始。またフリーでデザインや映像の仕事をしている。「自信を持って感謝と謙虚に」がモットー。

近年、豪雨による水害が各地で頻発しています。泥水に浸かった家財類は腐敗を避けるため、廃棄を余儀なくされますが、写真は「写真洗浄」という方法で残すことが可能です。当財団の助成団体である「おたがいさまプロジェクト」は被災地での支援活動と並行し、神戸市内で写真洗浄を行っています。代表の大竹修さんにお話を伺いました。

人を思いやる気持ちが
自分を変えた

私のボランティア歴は約20年になりますが、それまでは市民活動とは無縁の人生でした。20代から東京でITの仕事をし、忙しいサラリーマン生活を送っていたある日のこと、コンビニの前で不思議な光景を見ました。精神症状をもっている男性なのか一人で大声を出しているところに、若い女性がそのコンビニで買った水を「よければどうぞ」とごく自然に、笑顔で渡されました。そのあまりにも自然な行為に男性の独白が止み、しばらしくした後「ありがとうございます」というコミュニケーションが生まれたのです。私はその彼女の行動があまりにも美しく見え、自分もそちら側の人間になりたいと漠然とボランティアに興味をもちました。まず一人ですぐにやれるものとして思い浮かんだのがごみ拾いでした。当時、散歩コースの臨海地域はドライバーによるごみのポイ捨てが多かったのです。

最初、空き缶はしゃべらないから気楽でいいやと思っていましたが(笑)、1年ほど続けるうちに他人と心を通わせるべきだと思うようになり、次に見つけたのが炊き出しのボランティアでした。毎週土曜日の夜、路上生活の人たちに炊き出しを配ります。「ありがとう」と言われると自分もうれしくなり、人と心がつながる大切さを経験しました(その頃の「お互い様です」という言葉が団体名の由来です)

その後2011年、東日本大震災が起こり、知り合いのIT企業が支援団体を立ち上げたと聞き、運営スタッフに参加し、月数回、石巻の子どもたちに会いにいきました。そのとき自分は子どもという存在の大切さに気づき、自分の活動が子どもたちのためになればという意識が芽生えました。

写真洗浄を通じて
防災意識とやさしさを

2018年、実家の事情で神戸に帰ることになり、退職後の自由な時間をどう過ごそうかと思っていた矢先、西日本豪雨が起こりました。私はすぐさま[被災地NGO協働センター]が企画したボランティアバスに乗り込みましたが、帰りの車内で「活動したい人が集まれば、バスを提供できますよ」と伺いました。「自分もやってみようかな」と後日事務所を訪ねると、人を募るなら団体を立ち上げないといけないということで、あれよあれよという間に「おたがいさまプロジェクト」(おたプロ)が立ち上がりました(笑)

ボランティアバスは毎回、定員に達しますが、一方で“被災地に行けないが何かお手伝いしたい”という問い合わせを多くいただきました。やはり阪神淡路大震災を経験している神戸の方は被災地支援に思いが強いことを実感し、そんな温かい気持ちに応えることができたら、と思いついたのが写真洗浄で、偶然、現地の写真洗浄団体もアウトソーシングしたいと考えていたようです。

2019年6月、三宮の青少年会館で写真洗浄が始まりました。写真は泥水に浸かるとバクテリアが写真のゼラチン成分を食べていき、やがて見えなくなっていきます。乾燥させればバクテリアの被害が止まるため、そのような状態の写真を一枚ずつメラミンスポンジやアルコールで洗浄します。その後ポケットアルバムに収め、現地にお返しします(送料含め、全て無料)。これまでに約1万5千枚の写真を救い、被災者のみなさんから大変喜ばれました。また写真洗浄は小学生から年配まで活動できるため、参加者からは「親子で活動できていい経験になった」「あたたかい気持ちになれた」などの感想が寄せられています。

今、目標にしているのは神戸に写真洗浄の拠点を作ることです。写真や機材の保管に苦労しているので、決まった場所があれば、活動に集中できます。また情報発信の場として、写真洗浄の認知度を高められます。最近、浸水被害のあった秋田市で写真洗浄を呼びかけましたが、写真洗浄を知らず、たくさんの思い出が廃棄されているようすでした。

おたプロはボランティアの意義を伝えるため、現在17名の青年メンバーの育成に力を入れています。彼らを軸に写真洗浄の拠点が地域防災や思いやりを広める場として活用できればと願っています。

 

TOPへもどる