東野由美子さんのちょっといい話

2022年10月発行/第113号

子育て支援グループ てとて広場 代表

市民レベルで取り組む居場所は
ソーシャルサポートの宝庫です

 東野 由美子さん(ひがしの・ゆみこ)
3人姉妹の長女。高校卒業後21歳で結婚、22歳で出産。
3人の子どもを育てながら、大学で小学校教員免許取得。
地域の子育てサークルやボランティア活動に参加する中で、
地域の人たちの温かさと子育て支援の大切さを実感する。
児童館、保育園、大学等の勤務を経て、現在は市役所で
こども福祉に関わる仕事をしている。
2021年4月子どもの居場所「てとて広場」開設。

 

さまざまな理由で集団生活になじめず、自分の居場所がないと感じる子どもが増えています。そんな生きづらさを抱えた子どもや若者、保護者の居場所づくりを行っているのが、子育て支援グループ「てとて広場」(西脇市)です。今年度の[やさしさにありがとうひょうごプロジェクト助成]に選ばれた当団体の活動について東野由美子さんにお話をお聞きしました。

 

周りの声かけや寄り添いが
子どもの救いになる

てとて広場は2021年4月、西脇市で一軒家を借り、生きづらさを抱えている子どもや保護者のための居場所を開設しました。地元には大きな児童館がありますが、そこにも行けない子どももいるので、手作り感あふれるこじんまりした空間が必要と考えました。なぜ居場所活動を始めたのかというと、私自身が生きづらさを感じていた当事者だったからです。私は高校生のときに母子家庭となり、母親は持病を抱えながらの就労のため、ぎりぎりの生活でした。貧困生活から早く逃げたくて21歳で結婚。翌年に出産しましたが、周りに同世代のママがおらず、孤独な子育てを経験しました。2人目以降は気持ちに余裕が生まれ、地域の子育てサークルに参加するなど楽しい育児ができましたが、その2人目(真ん中の娘)が中学時代に不登校となり、不安と心配ばかりの時期を過ごすなど、不登校の保護者の気持ちも味わいましたね。
子どもたちは自立し、夫婦2人の生活が始まったのですが、社会に役立つ活動がしたいという気持ちがふつふつと沸き起こりました。子どもの貧困調査に関する本を読んだとき、ソーシャルサポートという言葉に心を揺さぶられました。周りの声かけや寄り添いが子どもの救いになると書かれており、かつての貧困時代や不登校で苦しかった思い出がよみがえったんです。そのような社会課題について国や自治体の施策もありますが、声かけや寄り添いなら私にもできるはず。教員になる夢が諦められず、専業主婦時代に大学で教員免許を取得したこともあり、子ども支援をライフワークにしようと決意しました。
そんな矢先、2人の女性に出会いました。ひとりは学校心理士の資格を持つ特別支援学校を定年退職した先生で、退職後も子どもの発達を促すような活動をしたいと思っていたそうです。もうひとりは、不登校だった私の娘が現在フリースクールで働いており、そこの親の会に参加していた人が西脇市在住でした。同じ思いを持つ仲間との出会いが大きなステップになり、活動グループを立ち上げました。

きめ細やかなサポートで
一人ひとりに生きる力を

居場所はグループ名と同様[てとて広場]と呼んでおり、0~18歳の子どもが自由に過ごせる場所として、毎週火曜日と土曜日の10~17時に開放しています。遊んだり、勉強したり、寝転んでいてもかまいません。テレビやパソコン、マンガなどもあるので自宅の延長気分で過ごすことができます。在宅で子育て中のお母さんも息抜きに来てくださいと呼びかけています。両日とも教育大学の学生がボランティアに来るので、宿題や遊びの相手をしてくれます。金曜日の夕方以降は勉強が苦手な子のための学習サポートの時間も設けています。保護者向けには発達の相談や遊びの広場、お話し広場、生活物資の支給、子ども用品リサイクルなどを実施しています。
居場所をやっているうちに特別支援学校の卒業生で就職がうまくいかず行き場がない、あるいは職場でパソコンが使えなくて困っているという実態を知り、障害をもつ若者対象の実用パソコン講座や居場所も始めました。また、協力者の得意分野を生かした体験活動として調理実習や農業体験、手話教室など、少しずつ活動メニューが増えています。
居場所を利用することで子どもたちに変化があらわれています。授業に全く集中できなかった子が今では1時間集中して学習できるとか、自分のやりたいことが見つかり、前に進もうとしている高校生もいます。スタッフ自身に発達の特性があったり、不登校だった人が多いので、ピアサポーターとして個性を尊重した支援が功を奏しているのでしょう。ここでは生きづらさを感じている子と普通に学校に行っている子が一緒に遊んでいます。学校集団とは違い、レッテルのない自然体の付き合いができるのも居場所の良さですね。「どこも無理だったが、ここなら来れる」、「指導的になりがちな公的機関はちょっと」という話を聞くと、てとて広場は最後の砦かなと思ったりもします。想像以上のすごい居場所になってしまいましたが(笑)、これからも子どもたちが健康で幸せに育つ環境づくりに貢献したいですね。

 

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