丸尾多重子さんのちょっといい話

2020年10月発行/第105号

特定非営利活動法人つどい場さくらちゃん 理事長

介護者を孤独にしない「つどい場」は
いつの時代も求められるのです


大阪市生まれ。
高校卒業後4年間商社勤務。
調理師免許を取得し15年間東京で働く。
帰阪後10年間で母、兄、父を在宅介護し
看取った。ヘルパ―1級(現、訪問介護員)
取得後2004年西宮市に
「つどい場さくらちゃん」開設。
07年NPO法人化。介護者の孤立を
防ぐことに全力を注ぐ。愛称まるちゃん。
著書に『ボケた家族の愛し方』
『親の「老い」を受け入れる』など。

悩みを聞いてもらうことで、心に背負っていた重石がふっと軽くなる…
そんな経験は誰にでもあることでしょう。「つどい場」は介護に悩む人たちの
交流場所として、各地で特色を生かした活動が展開されています。
その草分けであるNPO法人「つどい場さくらちゃん」の丸尾多重子さんに
活動の軌跡とこれからについてお聞きしました。

一番力をもらったのは
家族会の仲間だった

なぜ、「つどい場さくらちゃん」を作ろうと思ったのか。
そこに行きつくまでには私の長い介護体験がありました。
子どもの頃は大家族で暮らすのが当たり前の時代で、同居の祖母は60代半ばで
認知症になり家族で介護をしていました。
84歳で大腿骨を骨折したときは、認知症患者の付き添いをしてほしいと病院にいわれ
20歳そこそこの私が半年以上、寝食を共にしたこともありました。

祖母が旅立ったあと、私は東京へ。帰阪後、母はがんになり、手術に成功したものの
翌年の阪神・淡路大震災の年に転移が見つかり、9か月後旅立ちました。
その間絶え間ない「痛み」との闘いでした。
母が教えてくれたのは「緩和ケア」の大切さ。
長年、躁うつ病を患い、自死をした兄の教えは、精神科医の処方する
多量の薬にもっと敏感になってほしい!でした。

父が93歳のとき、誤嚥性肺炎になりましたが、奇跡的に快復しました。
「今まで母や兄との同時介護だったが、父1人なら楽勝。
100歳まで生きてもらおう」。そんな意気込みと覚悟を抱きましたが
なんと退院の翌日に父は旅立ってしまいました。
糸の切れた凧とはまさにこのことで、放心状態が半年も続き、
これまでの介護の後悔ばかりが募りました。

父が生きていた頃、認知症の家族会で「もうすぐ介護保険の制度ができる。
これは介護の社会化を進めるものだから、いろいろなサービスが広がるらしい」と
みんなでワクワクしたのに、制度が始まってみると家族を支援するような柔軟な
サービスがなくなり、がっかりしたことがありました。

自分が介護をしていて一番力をもらったのは家族会だったなあと思い出したんです。
家族会でつらさを吐き出すと、介護の苛立ちや悩みがすとんと収まり
仲間から元気がもらえます。家族会のように月1回ではなく、いつでも
気軽に駆け込める場所があれば、どれほど助かることでしょう。
制度がないなら自分で作るしかありません。それがつどい場の原点でした。

 

新しい時代に適合した
つどい場を提案したい

さくらちゃんでは4つの取り組みを行っています。
まず【つどい場】として平日の昼食時、誰でも集える場を提供しています。
本人や介護者、介護職、医療者、行政、学生などさまざまな立場の人が
一緒にご飯を食べることで、いつの間にか本音トークがさく裂します。
不安や悩みを語らい、情報を教え合うにぎやかなひとときが介護者を勇気づけますね。
在宅介護の実態を知る場として視察や勉強に来られることも少なくありません。

とはいえ、真面目一辺倒では行き詰ってしまうので、笑って発散するような仕掛けは
いつも考えています。たとえば、認知症の男性が北新地の常連さんだったと聞き
薄い麦茶をビールにみたて、私たちが接客し大盛り上がりしました。
本人のお人柄や状況をよく知ることで、楽しかった思い出を共有することができます。
そこに介護のしんどさを笑いに変えるヒントがあるのかもしれません。

気分転換も大事なので、【おでかけタイ】の活動では、毎年、国内外の団体旅行に
出かけています。台湾や韓国は観光バスのリフト化や電車に自動のスロープが
設置されているなどバリアフリーの施策が進んでいるだけでなく、街の人は
車いすの高齢者にとても親切です。

このような感動の体験は気持ちのリフレッシュにつながり
生きる励みになるものです。

そのほか、【学びタイ】は実践的な講座を開催し、介護技術の向上や
介護者が元気になれることをめざします。
【見守りタイ】では在宅介護者の支援として、見守りが必要な高齢者の話し相手や
付き添い、散歩などを行っています。施設の高齢者の話し相手になることもあります。

しかし、このたびの新型コロナウイルスがつどい場の活動にも大きな影響を
与えました。さくらちゃんでは換気と密に気をつけながらの昼食を再開しましたが
コロナ禍でつながれなくなった人たちはまだ大勢います。

この状況を打破すべく、ともしび財団の「第4回やさしさにありがとう
ひょうごプロジェクト」の支援のもと、リモートによるつどい場のアプリ開発を行い
新しい時代にふさわしいつどい場を提案していきたいと思っています。

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