“七丁目クラブ”の物語り
こころの山小屋
七丁目クラブ
中塚伸治(コープこうべ職員)
秋の雨が降るお昼前、垂水区高丸の坂道の途中にある、みんなの居場所“7丁目クラブ”を訪ねた。
落ち着いた住宅街をすすむと七丁目クラブと大書された手作りの看板が目に入る。
雨に濡れた玄関から明るいリビングへの扉を開けた途端、香ばしいカレーのかおりに包まれた。
“七丁目クラブ”代表の阿隨(あずい)章子さんは長年福祉の仕事に携わるうち
独居の方々と接する機会が増えてきたと話してくれた。
「家族に迷惑をかけられない」「子供に心配をかけたくない」「人としての尊厳やプライドを保ったまま老いたい」「ずっと家にいて今日一日誰とも話さなかった」どんな人の心の中にも孤独との葛藤があり、孤立と戦いながら生きている…。
そんな人たちの心の支えになりたいと思い続けていた阿隨さん。
ちょうど、ご近所の知り合いが転居されることになり、一軒家を借りられることに昨年末より念願の“七丁目クラブ”を立ち上げた。
はじめは週1回の喫茶から始めた居場所つくりだったが、ひょんなことから雀卓が手に入り
木曜日にはメンバーを募って健康麻雀、囲碁、将棋の会も持つ事が出来た。
将棋を始めたころには藤井四段の活躍もあり、やがて「子供将棋をしてみよう」「子供対象なら子育て中のお母さんたちの居場所にもなれるかもしれない」など少しづつ増えてきたメンバーの中から、いろんなアイデアが集まり現在は毎週2回以上の取り組みが安定して開催されるようになった。
おりしも訪問した当日はみんなで食べる月一回のカレーの日。雨の中でもメンバーが集まり、評判のカレーの仕込中であったようだ。
最初にコープともしびボランティア振興財団の助成を受けたことにより、地域で活動されている人たちと次々に知り合い、ネットワークがどんどん広がり、それに伴って活動も広がったのだという。
“七丁目クラブ”の居心地の良い室内には美しい花と山々の写真が飾られている。
うかがえば阿隨さんは趣味の登山で国内だけでなくトレッキングに海外の山々も訪れたという。
どこの山にも山を旅する人たちが一夜のからだとこころを休める山小屋がある。
そこはモノがあふれている街なかではないからこそ、人々は限られたモノを分け合い、同じものを食べ、一つ屋根の下でお互いに語り合い、疲れを癒し、そしてまた歩き出せる場所だ。
ここは誰もが素の自分に戻ることができる大切な場所なのだと阿隨さんは語る。
おはなしをうかがううちに、さしずめ阿隨さんはあらゆる人々によりそう山小屋の宿主なのだと思った。
お話を伺い辞去するころには、雨も小止みとなりあかりが差してきたようだ。
玄関外では小さな犬の縫いぐるみが赤いレインコートを着て見送ってくれた。
「七丁目クラブのマスコットです。雨の日はいつもレインコートで迎えてくれますよ」人とものを大切にする阿隨さんのこころづかいに触れた訪問になった。
“七丁目クラブ”という地上の山小屋は人生の山旅に疲れた人たちをささえる場として、これからもたくさんの人たちに大切にされていくと思う。
2017年10月