ともしび通信100号 記念特別インタビュー

望ましい地縁型とテーマ型の活動の融合

~第3次中期計画を語る~

藤井 博志さん
関西学院大学人間福祉学部 教授
当財団理事・第3次中期計画策定委員長

世帯ではなく、個人がつながっていけるコミュニティを

山口 当財団の今後5年間の指針となる﹇第3次中期計画﹈が完成し、藤井さんには委員長としてお力添えいただきました。
この計画を作るにあたり、今の社会の変化をどう捉えていますか。
藤井 日本は人口減少期に突入していて、少子高齢化が顕著です。長寿は喜ばしいことなのですが、問題は少子化です。20年後には3人に1人が65歳以上の高齢者となり、あらゆる場面で担い手の不足
が予測されます。もう一つは単独世帯の増加です。家族内で解決していた暮らしの課題を一人で抱え込むことになり、深刻なケースが目立っています。
山口 時代の曲がり角ではなく、もう曲がってしまっているとは…。暗く厳しい世の中が待っているのでしょうか。
藤井 これまで経験したことのない社会が待ち受けていることは確かです。かといって厳しさに怖気づいては生きていけません。みんなで知恵を出し合うことが大切です。
山口 これまで地域を支えてきた老人会や婦人会、こども会などの参加者が減り、休止や解散するところもあります。地域で知恵を出し合う手がかりがなくなっているような気がします。
藤井 これまで特に日本の郡部地域では3世代のムラ型コミュニティが中心で、都市部でもその延長で地域を支えてきました。これらは世帯単位のつながりでした。しかし、これからは従来の世帯単位
ではなく、個人がつながっていけるようなコミュニティに作り直すことがポイントになってくるでしょう。

誰もがどこかで関われる多様なチャンネルを

山口 日常は希薄な近所付き合いであっても、災害等が起きるとお互いがエネルギーを出して助け合いますよね。そのような緊張感を意識することも必要でしょうか。
藤井 人が協同するのに、外からの脅威で助け合うことと、夢を持ってつながることの2つ要因があると思います。しかし、脅威や不安だけでは人はつながりきれず、一緒に夢や希望に向かっていくことで、つながりは長続きします。不安を希望に変えていく転換の取り組みも必要です。
山口 それについては個人の熱量に頼らず、社会のしくみとして助け合いを深める手立てがありますね。
藤井 今、特に若い世代を中心に経済的格差が広がっています。結婚したくてもできないとか、子どもを持てないなどが少子化の一因になっており、この部分への資本の投下が圧倒的に不足しています。
若者や子育て世代への支援を社会のしくみとして作り上げていかないといけません。その事実にようやく国民が気づき始めました。この取り組みの効果をもっとも実感できるのは地域コミュニティなん
です。地域で子育てを応援すれば、親子が元気になり、高齢者も活力をもらえます。そこから多世代型のつながりや、話し合いの場が生まれ、知恵も出てきます。
山口 そういえば、最近は「子育て」などをテーマに地域を超えて活動するグループが増えています。従来型の地縁組織でなく、このようなテーマ型のコミュニティがますます有効になっていくような気もします。
藤井 地域には、自治会や町内会など、地縁でつながっているコミュニティがあります。一方、テーマ型コミュニティは地理的な要素は二の次ですが、その人たちも地域コミュニティの中で生きているので、ひとつのテーマで活動していくうちに地域との共通点に気づくことがあるでしょう。いろいろなつながり方のチャンネルが地域に用意されていることが重要です。地縁を大切にしながらも、テーマ型コミュニティが地域に根差していく。この2つの融合するところにこれからのコミュニティのあり方、地域社会の姿が見いだせるように思います。それらがやがてネットワークという形に発展するでしょう。ともしび財団が、新たにこうしたネットワークへの助成も考えていくことも必要でしょう。

人々の交流が知恵と活力を生み出す

山口 財団では、年に一度、助成を受けている団体が一堂に会する「市民活動交流会」を行っています。回を重ねるごとに交流が盛んになり、新しいネットワークができていくような気配を感じます。
藤井 ともしび財団が助成しているのは地域で地道に活動をしている団体で、中高年層を中心に地域をよくしたいという願望が強く、とても熱心です。つながろうという意欲もあり、市民活動交流会は
それを実現させるよい取り組みだと思います。一方、子育て世代は生活のことで精いっぱいで、世の中をよくしたいという意識を持つ余裕はなかなかありません。しかし自分たちの子どもが安心して暮ら
せる地域であってほしいというニーズは非常に高いです。子育てをテーマにした活動を進めていくことが若者支援につながり、地域課題への関心を呼び起こすように思います。
山口 地域で活動している高齢者の努力や知恵を知ると先輩への尊敬の念や人生に対する希望が出てきますね。
藤井 高齢者がこれだけ地域を支えていることを若者はほとんど知らず、大学のゼミで地域活動の見学をすると学生たちはすごく感心します。生き方のモデルになるという意見も聞きます。
山口 そのようなモデルを若い人たちにたくさん紹介できればいいですね。
藤井 それには交流がもっとも有効だと思います。
山口 ボランティアというとしんどいところを苦労して支えている、という印象を持たれることがありますが、活動の担い手は夢や希望を掲げ合って前に進むことが必要ですね。
藤井 「自分たちはここまでやれている」という承認や評価はとても大切です。なかなか身内では評価しにくいので、そういう場をともしび財団に作ってもらうと団体が元気になっていくと思います。
山口 誰もが夢や生きがいを持てる社会の実現に向けて、ともしび財団は皆さんと一緒に歩んでいきたいと思います。これからもご指導をよろしくお願いします。

≪聞き手≫
公益財団法人コープともしびボランティア振興財団
理事長 山口一史

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