重森健太さんのちょっといい話

関西福祉科学大学保健医療学部教授

どの年代の人も運動習慣は大切なこと
脳が鍛えられ、認知症予防に効果的

関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科・教授。1977年生まれ。 理学療法士.聖隷クリストファー大学大学院博士課程修了〔博士(リハビリテーション科学)〕。聖隷クリストファー大学助教 などを経て2011年4月より現職。2014年同大学学長補佐( 地域連携担当)、 2015年玉手山学園地域連携センター長を歴任。著書に「走れば脳は強くなる」(クロスメディア・パブリッシング)など。

「ちょっときつめの有酸素運動をすると脳内の血流が促され、認知症予防や改善に効果的ですよ」と語るのは地域理学療法学、早期認知症学の専門家・重森健太さんです。運動習慣の重要性とその内容ついてお聞きしました。

有酸素運動で
脳の神経細胞が増えた!

人口の高齢化は世界的な傾向で、とくに先進国では増え続ける認知症にどう対処するかが大きな社会問題になっています。認知症予防や改善の研究は以前から盛んに行われていますが、2010年にイリノイ州立大学のエリクソン博士が有酸素運動をある強度で一定の割合で行うと脳の海馬と呼ばれる部位の血流がよくなり、神経細胞が増えることを証明しました。このことから、運動が認知症に効果的であると広く知られるようになりました。すでにマウスの実験で運動が脳の神経細胞を増やすことはわかっており、認知症予防に運動は有効という仮説はありましたが、ヒトの脳の神経細胞が増えることをデータではっきり証明されたのは衝撃的でしたね。
認知症でもっとも多いアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβというタンパク質が蓄積し、7〜10年後に発
症するといわれています。私の主催するウォーキング教室でも、週3日1日30分のウォーキングを1年間継続してい
ただくと、アミロイドβに変わる前の酵素の減少が認められています。運動習慣が体を変え、脳にいい影響を与えることを強く実感しています。

なるべく若いうちから
運動習慣を

私自身、小さい頃から運動が得意で、NHKの体操のお兄さんを目指していましたが、水中トレーニング指導の場面を見学したことをきっかけに理学療法士を知り、その道に。長崎大学と長崎大学病院で、研修しながら、老人保健施設で理学療法士として勤務していました。当時は介護保険制度が導入された翌年のことで、まだ地域の理学療法が確立されておらず、大学病院で研修する私にとってまさに実践の場。日本ではまだ導入されていなかった「365日リハ」を掲げ、回数を制限せず、自主トレメニューに取り組んでもらうとこれが大当たりで、みなさんどんどん良くなり、在宅復帰率が上昇していきました。家族や他のスタッフの協力も大きかったですね。この分野は本当におもしろいと思い、研究を続けてきました。
60、70代でも運動を始めれば認知症改善に有効ですが、若いうちから運動すればもっといいですよね。運動習慣があれば生活習慣病自体がかなり減り、医療費の削減はもちろんのこと、高齢者の虚弱もずいぶん減り、介護問題に貢献できますね。30、40代を運動習慣のある世の中に変えていきたいというのが私の願いです。
有酸素運動はウォーキングか、走れる人は軽いランニングを。ちょっと汗ばむ程度といわれますが、正確に表現すると、最大心拍数の70%強度(220 -0.7×年齢)で約30分運動するのが理想です。これは案外きつく、街中で見かけるウォーキングの速度はたいてい遅い感じがします。

今から始めよう
脳を鍛えるトレーニング

室内でも簡単にできる運動を紹介しましょう。背筋を伸ばし、太ももを高く上げる足踏み運動や踏み台昇降、エア縄跳び(縄なしで跳ぶ)など、1日1分間続けることを目標にします。体と頭を同時に使う二重課題(ひとりジャンケンetc)や、体の左右で同時に違う動きをする拮抗運動(右手はグーにして突き出し、左手はパーにして胸に当てるetc)は集中力を高めることにつながります。
脳を若返らせるには精神的なアプローチも欠かせず、「させられる」ではなく「したい」という思考を。夢や目標を持つことも大切ですね。私の両親は学校の教員を早期退職し、地域の居場所づくりに取り組んでいます。そのイキイキとした姿に私の方が刺激をもらっています。
高齢になっても地域で活躍できることは、健康の秘訣かもしれませんね。ともしび財団は、地域をよりよくする活動を行っているさまざまな団体を応援されています。今後もその活動に期待しています。

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