野口真紀さんのちょっといい話

2012年10月12日投稿

灘区地域活動支援コーディネーター、神戸大学大学院人間発達環境学研究科教育・学習専攻

野口真紀さんのちょっといい話

野口 真紀さん
(のぐち・まき)
同志社大学文学部社会学科社会福祉学専攻卒。英会話教育講師、学習塾講師、母子相談員、デイサービスの生活相談員などを務める。名古屋市美術館の美術館ガイドとしてのボランティア活動も担う。2008年より神戸市灘区の地域活動支援コーディネーターとして、子育てサークル支援や子育て相談、情報提供など幅広く活動。「のびやかスペースあーち」では、相談員として活動する。

子育てが楽しくなるまちを
つくっていきませんか

子育てをむずかしくさせるもの…その要因の多くは母親の孤立した環境なのかもしれません。孤軍奮闘する母親の不安や悩みを理解し、困難を乗り越えるための具体的なリソースと結びつける存在があれば、子育ての楽しさを実感できるようになるのではないでしょうか。野口真紀さんは自身の体験をもとに、灘区の地域活動支援コーディネーターとして子育てが楽しくなるまちづくりをテーマに活動しています。そのようなコーディネーターの存在と重要性について、広く社会に知ってもらいたいと、研究活動をおこなっています。

人と人をつなぐ情報の
大切さを実感

私は現在、神戸市のまち育てサポーター(灘区では地域支援コーディネーター)の活動に従事しています。サポーターは、福祉、環境、文化、教育などさまざまな分野において、地域づくりやまちづくりの経験や知識を有する民間の人材から選定され(公募)、地域活動活性化の触媒役を担うというもの。なぜ、私が地域支援コーディネーターに応募したかというと、私自身が子育ての困難を経験した当事者だったからです。

出産後まもなく、夫の転勤で地縁血縁のない名古屋に引っ越しました。夫は長時間勤務のため、育児への参加がむずかしく、私は都心で子育てをする典型的な孤立した母親になってしまったのです。そのとき、地域の方に助けていただき、子育てのしんどい期間を乗り切ることができました。どういうところが育児を困難にさせているのか、身をもってわかっていたのと、大学では社会福祉学を専攻し、母子相談員や生活相談員などの相談業務に就いていたので、それらもコーディネーターの仕事に活かせるだろうと思いました。

実際、名古屋で生活していた頃、私はどのように助けられたのだろうか…それを確かめたくて、つい最近ですが、名古屋を訪ねてみたんです。住んでいた名古屋市天白区というところは、民間の、意識が高いお母さんが立ち上げたネットワーク「天白子ネット」があり、彼女たちが最初に取り組んだのは育児情報誌の発行でした。コープの店舗や郵便局など、たくさんの配布箇所もあったことから、育児情報誌を手に入れることは容易でした。それらの情報をもとに子連れであちらこちらと出かけるうちに、人とのつながりができ、子育てが楽しいものになっていったのです。情報がいかに大切であるか、いまの仕事をする上でとても参考になりましたね。

地域ぐるみで子どもを
育て、見守る

地域支援コーディネーターの仕事では、灘区こども保健係との連携による子育てサークルの支援や、子育て協力店の周知・調査、「のびやかスペースあーち」における子育て相談、灘区社会福祉協議会の「ベビーキャラバン」のファシリテーター(グループワークの進行役)・歌唱指導などをおこなっています。

灘区では、地域子育て支援が必要という行政の方針もあって、地域福祉センター単位で子育てサークルが形成されています。ある地域では若い世代の担い手がおらず、取り組みに困っていたのですが、支援を続けていくうちに育児サークルをバックアップする組織がサークルを卒業した当事者から誕生。イベントの開催や他地域との交流など、活動が非常にさかんになりました。その地域のふれあいまちづくり協議会の役員の方は「子どもらの楽しそうな声を聞いたら、手伝ってやらないわけにいかない」とおっしゃるのです。このような声を聞くと、コーディネーターとしてやってきてよかったなと思います。

また、他の地域では、育児サークルに助けられたというお母さんたちが、子どもが小学校ぐらいになると、こんどは乳幼児を抱えたお母さんたちをサポートする側にまわり、運営のお手伝いをするという素敵な現象も起こっています。このような子育て支援の場を築いてこられた地域の方は、本当に努力されていると思います。

子育て相談では、子どもの成長や実家が遠くて預け先がないとか、仕事がしたいなど、さまざまな悩みが寄せられます。専門的なケースについては保健師さんやマザーズハローワークにつなぐなど、解決できる方法を一緒に考えます。

神戸大学サテライトスペース「のびやかスペースあーち」で活動中の野口さん

社会活動をキャリアとして認める枠組みを

子育ての時期はなにかと大変なものです。この大変さの正体を理解したくて、キャリアカウンセリングの理論も勉強しました。どういう考え方をすれば子育ての時期をうまく乗り越えられるのだろうか…ある理論では、子育ての時期は「転機」と捉えられます。「転機」を乗り切るためには、いまの自分の状況やリソースを点検し、対処戦略を選び取ります。

一度社会に出てそれなりのスキルを持って仕事をしてきた女性であっても、仕事を辞め、子育てをしながら誇りをもって生きていくのは大変です。私も子育て中は自尊心が傷つき、自尊感情がなかなか持てなかったという経験があります。自信をもって楽しく子育てをし、意義のある暮らしができたらいいなと思います。そのためには、子育てをしながら地域活動に参加したり、ボランティアをするなど積極的な社会活動を個人のキャリアとして統合していこうという個人の意識の改革と、それを認めていくような社会の枠組みの変革が求められます。

ボランティア活動に手をあげ、行動することを評価してもらえる社会になれば、より多くの人がなにかやろうという気持ちをもつでしょう。小さな行動であっても参加者が増えれば、大きなチカラとなり、世の中がよくなっていきますね。

私は子育て支援の地域コーディネーターとして、活動から生み出される発見や成果、問題点を行政にフィードバックするところまでが自分の仕事と考え、研究に取り組み、発表できる形にしたいと思っています。

ベビーキャラバンではみんなで合唱、楽しそう!

※リソース…供給源、資源
※キャリアカウンセリング…仕事や生き方を選択していくための援助をおこなうこと

野口真紀さんは当財団の2012年度調査研究助成をうけ、「コミュニティーソーシャルワークの視点を導入した子育て支援におけるコーディネート機能のあり方について」について研究しています。

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