藏原亜紀さんのちょっといい話

2010年7月3日投稿

神戸大学大学院人間発達環境学研究科教育・学習専攻
藏原亜紀さんのちょっといい話

蔵原亜紀さん

藏原亜紀(くらはら・あき)さん1989年お茶の水女子大学家政学部児童学科卒、1989年~92年東京都公立小学校教諭。2003年~08年川西市役所健康福祉部すこやか子ども室(現こども部子育て支援課)子育て支援相談員。退職後は保育ボランティアなどの子育て支援活動に参加。現在、NPO法人に所属し、子育て支援コーディネーターとして活動している。

親子の育ちの拠点としての「ひろば」の支援の質を問う

大家族やご近所の人間関係に助けられた昔の子育てと違って、現代の母親たちは頼る人の少ない環境で不安や孤独と闘いながら、子どもを育てなければならないのが実情かもしれません。子どもの成長を見守りながら、親自身も成長することのできるこの貴重な時期を、充実させていくにはどうしたらいいでしょうか。

藏原さんは子育て支援相談員の経験から、地域の親子プレイルーム「ひろば」の質的向上と、支援を継続させるための体系的なしくみが必要と、当財団の調査研究助成を受け、研究活動をおこなっています。

子育てサークルの体験から支えあいの重要性を認識

私は小学校で教員をしていましたが、結婚を機に関西に引っ越し、第一子も生まれたので専業主婦となりました。親しい人がいない土地での子育てでしたが、公園デビューで知り合った人たちに声をかけてもらい、地元の子育てサークルに参加しました。子育てサークルの友達には、すごく助けられましたね。それまではきちんと子どもを育てなければと肩肘を張っていたのですが、しんどいときは人に甘えていいし、みっともない自分をさらけだしていいんだということ、互いに支え合うことの大切さ、ありがたみを実感しました。

二人目の子どもが少し大きくなった頃、川西市の子育て支援相談員に応募し、嘱託職員として採用されました。市が設置した「ひろば」プレイルームで親子を支援する仕事です。「ひろば」は小さいお子さんと保護者が自由に集える空間ですが、相談員として子育て相談に対応しながら、気になる親子に寄り添ったり、保護者同士の交流をコーディネートするなど、特に場づくりに力を注ぎました。

多様な親子が集い、育ち合える場が大切

「ひろば」では多様性の受容を大事にしていました。その原点となった印象深いエピソードがあります。

ある若いお母さんが女の子を連れて遊びにきました。その子は快活な1歳児で、部屋を走り回り、ほしいおもちゃを他の子から横取りしたり、トラブル続発です。だから、お母さんはその子を叱ってばかり。それまで平穏だった場の空気が凍ってしまったんです。お母さんが泣き叫ぶ子どもを引っ張って途中で帰ってしまうこともたびたびあり、私はその様子に心を痛めていました。恐らくこれまでにも、あちらこちらの公園で同じ状況を繰り返し、この「ひろば」が最後のよりどころのように思われました。私は、「ひろば」をそのような親子にとってこその居場所にしなくては、という思いを強くしたのです。

「ひろば」に来れば安心できると感じてもらえるよう、とにかくサポートを続けました。

そのうち「自分は若い母親だから躾ができていないと思われるのが悔しい。だから厳しく叱っている」と気持ちを話してくれました。弱音を吐けず、今まで必死で頑張ってこられたんだろうと思います。

そんなとき、なかなか遊びの輪に入れなかった別の子が、この女の子がきっかけを作ってくれて、場になじめたということがありました。「ひろば」で楽しく遊ぶ子ども達の笑顔に、親同士も喜び合いました。この経験から、「ひろば」に来ている皆さんの間に、子ども達の成長をゆっくり見守り、その過程を楽しもうという空気が生まれました。その若いお母さんも子育てに自信をつけた感じがしました。「ひろば」が親子の育ちの場として熟成していくのを目の当たりにしたのです。

その方は、実は、「ひろば」に来た当初は「子どもなんか、もう欲しくない」と言っていたんですが、その後、二人目を出産され、「めっちゃ可愛いねん」と報告に来てくださったんですよ。今では「ひろば」のコアメンバーですね。

人って、変わるものだなあと思いました。1回でも子どもの接し方を失敗したら、「ダメな親」と烙印を押されてしまいそうで、緊張しながら子育てをしている方がたくさんいます。でも、親としての私自身も含めて、周りの親子の姿から、子育ては行きつ戻りつ、そんなものと思えたらすごく楽ですよね。多様な親子を受け入れ、子育てを共有し、支えあう場をつくることの大切さを学びました。

社会資源につながる子育て支援モデルを作成したい

「ひろば」の支援についての定義はまだまだ曖昧で、支援者個人の思いや力量に頼って運営されているのが現状だと思います。

私は、 「ひろば」の支援は、多様性の受容に始まり、保護者をエンパワメントしながら、いずれその場を卒業してもらうことを理想と考えているのですが、支援者によって考えは様々です。このように決定的な子育て支援論のない中での、支援者のチームづくりはなかなか難しいものです。

支援の理念の共通認識を築くこと、支援の方向性をすり合わせることは、大きな課題です。支援者として行き詰まりを感じた私は、子育て支援のさらなる活路を見出すために、「ひろば」における支援を学術的に検証し、言語化することで、その質的向上と持続可能なしくみを考察したいと大学院で研究することにしました。

最近では「ひろば」事業が児童福祉法で法定化され、「ひろば」が親の自立を助け、成長を促す場であるという認識も高まってきました。「ひろば」の定義や支援者のあり方についての研究も随分と取り組まれるようになっています。

しかしながら、それらは支援者個人のあり方への問いかけにとどまっていることが多いため、私の研究では「ひろば」の支援の質を底上げする要因を多方面から探りながら、社会資源につながるような地域の子育て支援モデルを作成したいと思っています。誰もが一歩踏み入れたら受容される「ひろば」づくりを通じ、地域に貢献できればと思っています。

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