高井貴雄さんのちょっといい話

2010年4月15日投稿

神戸大学大学院人間発達環境学研究科教育・学習専攻

高井貴雄さんのちょっといい話

神戸市在住。特別支援学校教員。神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士課程前期課程修了後、同ヒューマン・コミュニティ創成研究センター障害共生支援部門学外部門研究員を経て、現在、同博士課程後期課程において、教育とインフォーマルな支援の両側面から実践的研究をおこなっている。

1998年早稲田大学第一文学部卒、同年4月姫路市役所入庁。教育委員会総務課所属。入庁以来、教育委員会、介護保険課においてNPOやボランティアとの協働を経験。

行政とNPO・ボランティアとの関係をよりよいものにし、協働の社会づくりにつなげたい

 

今よりもっといい社会であってほしい…行政もNPOも思いは同じなのに、両者がパートナーシップを構築できず、お互いの特長をうまく活かすことができない場合があるようです。高井さんは行政とNPOの考え方の違いを整理し、お互いを高めあえる「学びの場」としてNPOを捉え、その可能性を引き出すことで、行政とNPOが円滑にコラボレーションができると、当財団調査研究助成を受け、相互関係や協働のあり方について研究しています。

行政とNPOのコーディネートを

社会におけるNPOの評価というと、最近の話題では鳩山総理が就任後初の施政方針演説の中で、NPOの力を「新しい公共」と表現し、NPOを支援することは自立と共生を基本とする人間らしい社会を築くことにつながる、と述べました。NPOが公共の一角を担う存在として、社会で果たしていく役割がますます重要視されているといえますね。

私は12年ほど姫路市役所で働いていますが、これまで様々な部署でNPOやボランティアと協働して仕事をする機会に恵まれました。地方自治における協働のパートナーとされる行政とNPO・ボランティアですが、協働して事業を進めるなかで、意見の食い違いやお互いの考え方に不満を持ってしまう場面に出くわすことが少なからずありました。

これは、NPOやボランティアが「個人の思い」を根底に活動していることと相反して、行政は全体の奉仕者として市民の信託を得て、最大多数の最大幸福を目的に活動していることに起因します。団体として活動のベースが「個人の思い」にとどまったままだと、社会全体を考える立場としての行政の考え方とはズレが生じてしまうのです。

たとえば、市民グループが近所の道路をきれいにしてほしいと提案したとします。道路をきれいにすることは、他の市民も悪いことだとは思わないでしょう。しかし、それをどのように行政の中で実現させていくのかは別の問題です。より公益的な発想の転換が必要になります。こんなふうに考えてはどうでしょう。その近所の道路だけではなく、市全体の道路をきれいにするにはどうしたらいいのだろうと。より多くの市民が共感でき、関わりがもてるような考え方に発展していくこと、それが行政とNPOの協働の糸口になるのではないかと思います。

NPOとの協働の経験から、行政とNPO・ボランティア双方に求められる資質を明らかにし、お互いに考え方をどのように理解したら、うまく特長を活かしながら活動することができるのかを研究したいと思いました。地方分権が進む今日、「小さな政府」がいわれ、行政機能は必要最低限にとどめようとする方向に向かっています。NPOが行政の下請けではなく、より主体的に、公益的な使命を持って「新しい公共」を担っていくには、お互いの考えを整理し、知る必要があると思います。

とはいえ、私は学生時代、NPOとかボランティアなどにまったく関心がなかったんですよ。大学では相撲部に所属し、毎日、土俵で練習に明け暮れていました。NPOという言葉も知りませんでした(笑)。仕事で関わりをもって初めて、世間にはこんなに一生懸命、活動をしている人たちがいるんだ、と驚きました。ある意味カルチャーショックでしたね。

だからこそ、NPOやボランティアのパワーが空回りすることなく、充実した活動に発展するにはどうしたらいいのだろうと考えるようになったのかもしれません。

NPOは人間性を高める学びの場

社会学で、「中間集団」という概念があります。これは、個人と社会・国家を媒介する役割を果たす集団をさす言葉で、個人の生活欲求を満たしながらも、社会全体の秩序を維持する機能を併せもつ集団ともいえます。学校や企業、行政、自治会のほか、NPOもこの中間集団に位置付けできます。つまり、「個人の思い」を実現する活動から始まったNPOも、その中で個人個人が話し合いや議論によって考えが成熟し、より広い視野を見据えた活動をする団体に変わっていく、言い換えれば、個人的な欲求を満たす団体からその欲求が昇華し、公益的な活動を行う団体に変化していくということです。

NPOは、公益的な活動を行うと同時に、参加するメンバーの社会性を培い、人間性を高めていくインフォーマルな「学びの場」としての可能性を併せもつものと考えています。

ただ、注目しなければならないのは、そのような可能性をもつ団体は一部の元気なリーダーたちのみが主導するのではなく、各個人が無意識のうちにお互いに影響しあう関係になり、そういう役割を誰もが果たせるところではないかと思います。カリスマ的なリーダーがいて、組織がピラミッドになっているところは、NPOとしての活動の継続性に疑問があるという気がしますね。

そのように考えたのは、あるNPOとの出会いによるものでした。NPOの内部で、「学びの支援者」と表現するとわかりやすいと思いますが、個人の思いを交通整理してくれる人が活躍されていたんです。それは特定の人ではなくて、あるときはAさん、あるときはBさんというふうに。NPOという場で、個人の思いと行政の考え方とを上手に紡いでくれたんです。

結果的にNPOそのものが、個人的な欲求を満たそうとなりがちな集団から、公益的な欲求の実現を目的とする集団へと変化したのです。このような中間集団としてのNPO・ボランティアの学びの場としての可能性についても研究し、まとめているところです。

以上、2つの要素を学術的に研究し、普遍化させ、行政とNPO・ボランティアにとって実践的で有益な相互の関わりをさらに発展させていく一助として、これからも活動し、同時に行政マンとして仕事をしていきたいと思っています。

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