赤堀富子さんのちょっといい話

2009年7月2日投稿

「あとりえ・クルレ」代表、神戸学院大学大学院人間文化研究科心理学専攻
赤堀富子さんのちょっといい話

描画活動を通して、発達障がいの支援につなげ、生き難さを緩和させたい

赤堀富子さん

赤堀富子(あかほり・とみこ)さん1987年子ども絵画教室開設、2004年「あとりえ・クルレ」と改め、現在地(神戸市垂水区西舞子)に移転。神戸学院大学大学院で心理学を専攻し、描画発達を研究。発達障がい理解のためのセミナー開催や西江井ケ島病院デイサービスで絵画療法を担当。発達障がいをもつ青少年のための農業体験事業ボランティアも実践。

障がいをもつ子どもたちの絵に心のありようと、ゆるやかな発達の過程を見出したという赤堀富子さん。2009年度の当財団調査研究助成を受け、臨床心理学研究の立場から描画発達の支援と子どもたちのネットワークづくりを応援したいと言います。

可能性の芽を見つけよう

最初は自分が絵を描く場所を確保したくて、その傍らで子どもが絵を描いててもいいなという感じで、アトリエを開いたんです。2、3年後に肢体不自由の子どもが入り、手の力が弱くてクレヨンは持てないけれど、書道の小筆なら持てることに気づきました。その彼とゆっくり付き合っていこうと思っていた矢先に彼のネットワークで自閉症や知的障がいの生徒が増えてきたんです。「うちの子でも描けますか」と親御さんはおっしゃいますが、何ができるかわかりません。いろいろやってみましょうと経験を積み重ね、20年が経過しました。

今、重度の脳性マヒの子がおり、筆が持てないので、手や腕に絵の具をつけて紙にバーンと塗りつけています。おもしろい作品ができていますよ。ダメとか、できないとか諦めなければ、可能性を見出せるものです。重度の障がいを合併している子は、座るだけでも大変ですが、そのうち1時間ほど座って絵が描けるようになってくるんですから。

アトリエで週1のレッスンを10年、15年と付き合っていくことで、成長の過程をつぶさに観察することができます。その子の3年先、5年先に必要なものが見えてくるので、同じ障がいを持つ小学生の親に中学生の親を引き会わせるなど、先の不安を少しでも軽減できるようなサポートをしたいと考えています。

ここでは健常児の生徒も一緒に制作しています。しゃべりだしたら止まらない発達障がいを持つ子に、周囲の子が普通に注意します。偏見もありません。共生のありようを自然に学べる空間が大事だと思います。

達成感が成長の糧になる

心理学を学ぶきっかけになったのは、自閉症の子どもの絵に関する文献に疑問を持ったこと。イメージだけで絵を描くとか、線画だけか、無機質な絵だとか。

しかし、ここに来る子の絵はそうじゃありません。描画発達を学ぶためには心理学が必要と知り、大学の科目履修生になりました。自閉症児の描画の発達は研究者も少なく、十分研究されているとはいえません。しかも描く過程を論じることはなく、特徴的な絵を分析していることが多いようです。興味が限定されている、人が出現しないなどと言われます。

しかし、クルレではいつものメンバーで、お互いに関わりながら何年も制作しているので、人との関係が自然に身についてきたと思われます。その結果、自閉性障がいを持つ子どもの中には自発画にいろんな人が出現する子もいます。

年に一度の展示会では、一人30枚の絵を展示するため、壮観です。家族や関係者が来られ、みなさん信じられないという顔をされます。ふだんは注意されることの多い彼らですが、このときばかりはたくさん褒めてもらえて晴れがましく、その達成感が成長に結びつくような気がします。

誰にでも応用がきく描画支援を

「臨床描画研究」という雑誌に投稿した論文で取り上げたある重度知的障がいを持つ青年なのですが、5歳からクルレに来ていました。最初の9年間はほとんど何も描きませんでした。

もしかしたら、彼なりに形を持っているのでは、と気づいたのが中2の頃。年末にカレンダーの絵を描くのですが、「12月のクリスマスツリーを描いて」と言うと三角をぽんぽんぽんと縦に並べて描いたんですよ。あれ?と思い、「8月は暑いからアイスキャンデー食べるよね」と言ったら、長方形に1本の縦線をくっつけた絵。

「君がいないじゃない」と言うと、そこにしゅっと線(手)が伸びて○(顔)を描いたんです。モノとモノの関係がわかっている! それまでの検査では1歳以上の認定が出なかったのですが、高2時の療育手帳の更新では3歳4か月という結果でした。今では自発画も十分描きます。こんな成長もあるのかと感激しますね。

現在、遠方から通う子どもが多いのですが、地域との結びつきがとりわけ必要な子たちなので、できれば地域で描画活動に参加して欲しいと思っています。そんな思いもあって、描画発達を支援につなげるよう、これまでの実践を理論にまとめ、介護の現場も含め、誰にでも応用がきくものとして汎用させたいと思っています。それを手がかりに、子どもたちの環境をより豊かなものにするためのネットワークも構築したいものです。

※文中の事例はご家族の了解をいただいています。

赤堀富子(あかほり・とみこ)さん
1987年子ども絵画教室開設、2004年「あとりえ・クルレ」と改め、現在地(神戸市垂水区西舞子)に移転。神戸学院大学大学院で心理学を専攻し、描画発達を研究。発達障がい理解のためのセミナー開催や西江井ケ島病院デイサービスで絵画療法を担当。発達障がいをもつ青少年のための農業体験事業ボランティアも実践。

「あとりえ・クルレ」のホームページはこちら

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