末永美紀子さんのちょっといい話

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア 代表理事

誰もが通えるこども園はみんなの願い子どもたちに豊かな時間を

看護師、保健師を取得後、和歌山県立医科大学付属病院、兵庫県立こども病院に勤務。出産退職後[ちっちゃな保育所]を開設。保育士、認定心理士資格を取得。2008年NPO法人化。09年[ちっちゃなこども園にじいろ]に移行。ナースオブザイヤー2012『インディペンデントナース賞』受賞。15年[ちっちゃなこども園よつば]、児童発達支援&放課後等デイサービス[て・あーて]を開設。2019年放送大学大学院文化科学研究科修士課程修了。

 

看護師、小児科の病棟看護師の経験から、医療的ケア児や障がいのある子も一緒、長時間保育による手作り夕食等、多様なニーズに応え、家庭的な保育園を運営する末永美紀子さん。当財団の「社会人の学びと研究助成」対象者でもある末永さんに開設の経緯や研究内容についてお聞きしました

看護師の経験から必要とされる
保育園をつくった

母が保健師だったので、自然と同じ道に進み、小児科の病棟看護師として働きました。勤務は三交代制のため、子育てしながら夜勤をこなすのは大変なこと。祖父母など家族のサポートがないと続けられず、辞めていく先輩たちを残念に思っていました。また、看護の現場では、退院後の子どものケアに戸惑うお母さんたちの姿を目の当たりにしました。社会に放り出された気持ちになるといいます。医師の「風邪をひかせたらあかんよ」のひと言がすごいプレッシャーになり、親子で引きこもってしまうことも。そんなお母さんこそ、リフレッシュが必要なのに、医療的ケア児や障がいをもつ子を預かってくれるところはほとんどありません。
ちょうど自分が出産したことを機に、病棟看護師を退職。子育てしながら地域や医療界に貢献できる仕事を考えていました。高校時代に交換留学したアメリカで「自宅で子どもたちを世話するデイケア(小規模保育園)」を見聞きした経験をもとに2004年、自宅の1階で﹇ちっちゃな保育所﹈を開設。医療的ケア児や障がいをもつ子も一緒に育つ保育園、長時間保育で働く親のサポートができる保育所を実現しました。さらに、毎日、手作り夕食を提供するなど、子どもの生活リズムや健やかな成長を一番に考えた取り組みも行いました。
認可外保育施設のため、保育料は高めでしたが、定員( 12人)はいつもいっぱいで、社会のニーズを実感しましたね。スタッフは数人いましたが朝7時半から夜8時までの13時間半、ずっと保育所にいるのは私だけ。洗濯、料理、保育、看護、事務作業など何でもやりましたよ。お金の苦労はあったけれど自分の子育ても一緒にできたので楽しかったです。

共生保育をもっと社会に
そのお手伝いがしたい

保育所を作った自宅は5年の定期借家だったので、その後の場所をすぐ探さなくてはなりませんでした。物件探しは難航しました。大家さんに「保育所に使う」と言うと騒音や建物の傷みへの懸念などで断られることが数多くありました。「おうち」のような家庭的な環境でありながらもスタッフの休憩室もほしい。ある程度の広さが必要なため、思い切って、自宅兼用の一軒家を新築。2009年 ちっちゃなこども園にじいろ として開設しました。定員を増やしたものの、スタッフの数も増やす必要があるため、赤字は膨らむばかり。限界を感じ、理事会で休園を決定したこともあります。ちょうどそのころ神戸市の保育ママ事業(その後「子ども子育て支援法」による小規模保育事業に移行)を活用することで運営が安定してきました。
ひと息ついたものの、子どもたちの成長に伴い、施設が手狭になってきたことと、スタッフの規模が課題でした。10人程度ではキャリアのバリエーションに乏しく、若い職員のロールモデルが少ないと、夢を描きにくいと感じました。事業の拡大や種類を増やすなどでスタッフの母集団を大きくすれば、ポジションの変更や補い合いなどができ、自己の成長を促すとともに、チームワークがしやすいのでは。そのような理由から、2015年に小規模保育、認可外保育、障がい児通所支援の3施設一体の建物﹇神戸ともそだちの丘﹈を新たにつくりました。現在、50人ほどの幅広いキャリアのスタッフが子どもたちとご家族に寄り添い、豊かな生活のお手伝いをしています。
世間では医療的ケア児や障がいのある子どもとの共生保育について「リスクが高い」ように言いますが、私たちは具体的に「どんなリスクとその対処があるのか」を常に考え、話し合っています。共生保育が増えない理由にこのような認識のギャップをあると考え、保育分野のリスクとそのマネジメントを分析、体系化について、ともしび財団の支援を受け、大学院で研究しました。誰もが通えるあたたかいこども園は保護者の願いであり、子どもが子ども社会に参加する基本的人権です。共生保育の必要性を多くの人に知ってもらい、これから取り組みたい人の応援になればと思います。

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